トツゲキ人生「厚生」

社会的な視点を少しずつ身に付けることが出来ていた。法人化への思惑を現実的なモノにするべく、まずはその第一歩として、実際に仕事を手伝ってくれているスタッフさんの将来を本気で担う為の歩みを進めることにした。家庭教師という業界は、一般的には登録派遣のような業態がほとんどであった。だからこそ経営サイドでは、雇用契約を結んでまで家庭教師を雇い入れるような真似は、ほとんどの会社で行っていなかった現状が存在していた。そこに来て私は、むしろそんな環境だかこそ厚生年金や健康保険にキチンと加入出来る環境を創ってやんないといけない、と沸々と涌き上がっていたのだ。決意も新たにとにかく厚生年金や健康保険に関わる各種機関を調べ上げて社会保険庁西宮事務所を発見。今で言うところの日本年金機構西宮事務所である。

働いてくれてるスタッフさんに厚生年金や健康保険を掛けてやりたいんです!、といつもの如く激しい第一声。藁をも掴む思いで社会保険庁西宮事務所(以下、西宮事務所)へ相談の電話を入れつつ訳も分からず跳んで行った。窓口担当者の方から業態やら所在地やら、幾つか簡単な質問を尋ねられて必要書類を説明してもらった。そして早速、基地へ戻って書類群達と戯れることにした。けれども実際、封を開けると悶々とした気持ちが拭えない。こんなに多くの種類の書面に記入していかないといけないからだ。ズブの素人の私では途方も無いこと。今でこそ当たり前なのだが社会保険労務士の方にお願いすれば、なんて事も無い実務であだろう。そう分かっていたものの、そこはやはり、時間は掛かるかもしれないが最初の最初は是非とも自分で味わってみたかったのだ。いつもの如く、再三に渡る程の電話の応酬。1日に4、5回は最低でも質問の為、西宮事務所へ電話していたに違いない。とは言えその介もあり何とか全ての書類をヤリ遂げて提出に繋げた。翌日、適用課の担当の方から連絡もらって幾つか訂正箇所を指摘されて訂正した。また改めて申請書の審査を行ってから書面で詳細を伝えます、という言葉を頂いてから3週間程経過していたある日。ようやく西宮事務所からA4の部厚い封書が届いていた。早速中を確認して手の震えが止まらなかった。期日と必要書類の諸々が明記してあったのだ。

調査日当日、朝から緊張していた事もあって1時間も早く到着してしまった。ましてや前日あんまり寝れなかった事を今でも覚えている。定刻10分前になり扉を開いてしばらく待った。けれどもスグに調査官2人が駆け寄ってきてくれて一先ず廊下でのご挨拶。都合の良い部屋を探すのだが当日は全ての会議室が埋まっていた。そこで止む無く雑用室で調査を始めることになった。我ながら丁度良い感じだったと言える。むしろ、その方が落ち着くのだ。幸いにもちょうど昼休憩で誰もいない。個人的に座れれば廊下の隅っこでも良かったのだが、そうはいかないみたいだ。会議室だろうろ雑用室だろうと何だって構わない。心境としては緊張感で頭がパンパン。調査の結果で適用するか否かが決まります!、という調査官の言葉が脳裏を巡る。3、4ヶ月もの間ではあったが「社会保険」というモノを独学で学んで身辺を整えてきた。それに適用されなければスタッフさんの将来性を担うことが出来ない。それでは示しが付かないのだ。

1人の調査官から様々な質問を受けた。「事業は何処で行っていますか?」、兵庫県南部ほぼ全域です。「許認可を受けていますか?」、いいえ受けていません。なぜなら登録派遣業ではないので派遣業には属さないからです。「どんな事業をしてるんですか?」、家庭教師業です。受験塾家庭教師のスタッフが受験塾家庭教師としての学習指導をお客様へお届けするサービスを業としています。 ですから家庭教師を派遣する事を業としているサービスではありません。「雇用契約が存在するということですか?」、はい存在します。「労災保険には加入していますか?」、はい加入しています。「雇用保険にも加入していますね?」、はい加入しています。「売上は手渡しですか?」、いいえ。ゆうちょ銀行へ入金してもらっています。「スタッフさんには給与として支給しているんですね?」、はい給与として支給しています。このような質問を突きつけられ、直視一丸となって身震いしながらも返答出来ました。正に切羽詰まった状態であるのは言うまでもないでしょう。にも関わらず調査はどんどん進んでいきます。次に書面の確認です。調査官の言われるがままに書面を目の前に出して確認してもらいました。「帳簿を見せて下さい!」、帳簿は無いので帳簿らしきモノを見せました。「日勤簿を見せて下さい!」、日勤簿も無いので日勤簿らしきものを見せました。「タイムカードを見せて下さい!」、直行直帰である事をキチンと説明し納得頂きました。「税務署への開業届を見せて下さい!」、これは手元に原本を準備していたので見せることが出来た。「労災保険と雇用保険の申請書を見せて下さい!」、これも準備していたので見せることが出来ました。「履歴書と雇用契約書を見せて下さい!」、これはパパッと2、3名のスタッフを確認して納得頂きました。

これで全ての調査も終わり、事前に提出していた申請書類を徐に取り出して端々を整え、1つ1つ力強く印を押す光景を目の当たりにしました。その時は頭もボヤ〜〜ッとして気が付きませんでしたが、この瞬間、個人事業主であり家庭教師業であるものの厚生年金と健康保険に加入することが出来た、というコトなのです。最後に調査官が、コレで受理します!、という一言。私は座っていたイスから崩れ落ちるようにして、しゃがみ込んでしまいました。調査官からも、大丈夫ですか?、という声掛けに涙ぐんで何とも言えない感謝の気持ちを伝えました。これでようやく厚生年金や健康保険に加入出来るようになったのです。