トツゲキ人生「一喝」

これでもかぁ〜!、というぐらい毎日毎日毎日のように仕事に明け暮れていた。以前とは何だか何処と無くシッカリした面持ちで手元を捉えていた。無意識の内に自分でも気が引き締まっていたのだろう。タイミングもそこそこにタウンページの打ち合わせ日が差し迫ってきた。だから、と言って特別な戦略を練ったり大袈裟な準備をしたりしなかった。基本的にはぶっつけ本番型なのだ。勢い良くぶつけて跳ね返ってきたモノを拾い集めて考えて考えて考える。風呂に入ってる時も飯を食ってる時もトイレにいる時も寝るときも運転の時も、とにかくひたすら考える。全ての集合体が大凡良い感じで和み、そして重なった頃合いを見定めて一気にピンを打つ。これは私にしか出来ないことだし私がやらないといけないことだ。このスタンツで、成功体験を得た、というような確信出来る実感はない。けれども、大きな失敗に繋がってしまった、ということもまた無い。大きな失敗は必然的に倒産を意味するからだ。一寸先は闇である。

打ち合わせ当日、ご挨拶も早々に本題に入った。小さい会社の割には出稿数が比較的多いという事もあり毎年、必ずタウンページの営業担当の方と打ち合わせの機会を頂いている。実のところ結構、毎年楽しみにしている。新しい風を吹き入れることが出来るからだ。発想の坩堝、と自分勝手に心の中でイメージしている。そこへ来て今年ばかりは、もの凄く熱い担当の方だったので大きな期待を寄せた。昨年の実績を露骨なまでの数字で話したり、今年度の戦略に関わる内容を簡単に質問したり、2年後3年後に繋がる将来像を伝えたりした。とにかく100%信頼信用して全てをさらけ出して熱っぽく話した。それに夢中になって聞いて下さった担当の方も、幾つか提案書をお持ちしましたが持ち帰って今の話を重ねたうえで新しい提案書を持参します!、というものだった。一先ず10日程先に約束日時を決めて、その場を後にした。

そして10日後、、、。約束の場所で待ち合わせ。2度目の打ち合わせが開始された。早速、提案書に目をやる。今でも鮮明に覚えているがあの時の私の反応は本当に薄かった。見た瞬間に、何だか違う!!、と迸る。何が何だか分からないが何かが違うのだ。ただ1つ言えることは、違和感を感じる、というぐらいのことだっただろう。恐らくあの時、お値引き、というモノが存在するという事を知ったからだ。元より定価オンリーな価格帯でしか頭に無かった私にとっては、何だか不思議な感覚だったのだ。とは言っても、お荷物を背負わせるにはいかない、という気持ちが大きかったので事情を伺うべく当然の如く質問した。すると出稿年数やらサイズやらエリアやら、そのような様々な要素が固まって担当者レベル、マネージャーレベルで許可が降りれば可能なものだと説明を受けた。それでもヤッパリ何となくピンッとこなかった。料金は下がる、というのは確かに嬉しい。正直な気持ちだ。普通ならば飛び付くだろうが私は普通ではない。ここまで考えて下さったんだなぁ〜!!、とシンプルに嬉しい気持ちもある。でもやっぱり違和感は拭えない。提案内容に至っても落ち度なんて一切皆無に等しい。差し出してこられるカードも全てが一様に効果的なカードばかりだ。優秀な方じゃないとココまで完璧には出来ないのだろう。熟練の成せる業だ。疑問が拭えないまま結論が出ないまま、気が付けば同じような打ち合わせを2度、3度も続けていた。これではまったく生産性が無い。思い掛けないぐらい時間を要した。本当のところは2度目で決めたかった。恐らくそれが互いの思いの節だろう。でもやはりそこは妥協したくない。そんな葛藤の中、同じような打ち合わせが2度3度続いても決まらない、となると痺れを切らしてしまうのは当然。

いよいよ4度目にその瞬間がやってきた。打ち合わせも1時間2時間が過ぎ、いよいよ煮詰まってきた正念場。担当の方が一言だけ唐突に発した。そういう意味でお値引きを提示している訳ではありませんよ!!、と神妙な表情で一喝。その言葉に私は我に返った。確かにそうだ。いつの間にやらお値引き専攻で話が進んでいた。気が付かない内に決める為の基準がお値引きを軸としたカタチになっていたのだ。もちろん予算がいっぱいある訳でもないし、無いからこそお値引きをしてもらえれば大変助かる。その部分を熟慮して下さった気持ちも大いに分かるし有り難かった。担当の方には大変感謝している。しかしながら根本的にそういったコトで決めるべき提案ではなかったのだ。でもこれは担当の方の考えを見抜くことが出来る良い機会でもあった。お値引きというのはお互いの為にある効果と分かったのだ。それまでの考えを一瞬にして極端な程にまで改めた。むしろ無理矢理、振り出しに戻した、と言えるだろう。

ハッッッ!!、と気が付いた。元来より私は100円の価値のモノを80円で売りたいとは思わない。ましてや120円で売りたいとも思わない。100円の価値のモノは100円で売りたいし、むしろ100円で売るべきと考えている。それは値崩れが価値を崩してしまい兼ねないからだ。崩れた価値を元に戻す事は値引きをして得られる収益よりも一層大きな努力が必要となる。それは痛い程よく知っていた。目先に捉われてはいけないのだ。この度の打ち合わせで、高いから安くしてくれ!、と発したことなんて一度もないし思ったことすらも無かった。それが熱っぽく話をするうえで、お値引きをしてくれる!、という意識が常態化しつつあったのだ。ダメだ、ダメだ。こうなると話は早く回転していった。既に頭は金額度外視で思考回路が動く。もうこうなってくるといくら料金が掛かろうと関係ない。その時の1分は1時間のように思える程、長い時間が過ぎていた感じがした。手元の資料と頭の資料を元に問合件数から成約率を導き出して考えた。もちろん自分の思い込みな部分は幾分あったかもしれないが懸命に考えを漸進させた。

広告を掲載する本質を落ち着いて考え、知ってもらうコト、と自分の中で位置付けた。よって、決めてもらうコト、を期待してはならない。いかに知ってもらうことが大切であるかだ。知ってもらうことが、連絡する、に自然と繋がっていくと期待しよう。その衝動を引き起こすには内容を充実させる為にも目線を絞り込むべきと考えた。絞り込んでいく内にサイズを判明させることに成功したのだ。サイズが絞り込められれば料金を算出することが出来る。大凡のエリアを自分の就業範囲で呈してみた。多くの方々に知ってもらう為に妥協は出来なかったが幸いにもサイズの効果もあって思いの外、可能性を導き出すことが出来ると判明した。前年度で比較すると、サイズは小振りになったがエリアを広げることができ料金を抑えることが出来た。あの一喝あの一言が無ければ今のような結論には至らなかっただろう。私からの新しいカードは幾分、担当の方の動揺を誘ったかのうように見えたが、さすがに致し方ない。そのカードを見た時、これではお値引き出来ないですよ!!良いんですか?・・・。もちろん返事はYESだった。1ケ月も掛かった打ち合わせがたったが一瞬で幕を下ろした。当時の担当者様には今でも本当に感謝している。このキッカケがあり3年連続で前年度比広告費削減に結び付いているだけでなく、皆様のご愛顧を3年連続獲得することが出来ているからだ。